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2011年1月

2011年1月29日 (土)

【2011年全豪オープン】エナン引退表明のショック

 最初の時もそうだったが、またしても唐突なエナンの引退だった。全豪オープン3回戦で敗退したのち、代理人を通じて引退を表明。右ひじの故障が思っていたより重傷で、手術と長期のリハビリが必要となり、しかも復帰の保証は得られなかったからだという。

 ひじは昨年のウィンブルドンでキム・クライシュテルスとの試合中に痛めた。確か、プレスセンターのモニターテレビでこの試合を見ていた。単なる打撲のようにも見え、その試合は途中棄権せず最後まで戦ったので、引退につながるようなケガになるとは思ってもみなかった。

 あのバックハンドが、あのガッツむき出しのプレーが見られなくなるのはさびしい。柱となる選手がいない女子テニス界には大きな損失だ。復帰後はオフコートでの笑顔も増え、いつもピリピリしていた昔のイメージを覆しつつあったのだが。

 日本選手にとっての最高のお手本がいなくなったという意味でも残念だ。小柄ながらテニスはアグレッシブで、攻めが早かった。プレースタイルだけではない。エナンは、ロドリゲスコーチとマンツーマンで技術を磨き、極限まで肉体を鍛え、精神面を研ぎ澄ませた。テニスを楽しむという言葉とは対極にいて、道を究める者の厳しさをいつも漂わせていた。われわれ日本人こそ、こういう形でテニスを追求すべきではないか、などと思ったこともある。だから、エナンには、ずっと現役で活躍してほしかったのだ。

2011年1月28日 (金)

【2011年全豪オープン】誰にも予測できない結果、フェデラー完敗

 戦いを前にジョコビッチは「グランドスラムの準決勝は何が起きるか予測できない」とうそぶいていたが、まさに予言通りの結果になった。両者は昨年の全米でも準決勝で対戦し、ジョコビッチが5セットで勝っている。しかし、その後はフェデラーが3連勝。全米での敗戦の苦さはもう払拭したと見ていたのだが。
 フェデラーのフレームショットが目立った。焦り、ナーバスになっている時の現象だ。攻撃的なショットも、そこに確信が込められていないから、切れ味が鈍り、ジョコビッチの鉄壁の守備を打ち破れない。昨年の全米は両者がベストに近いプレーをしたうえでのジョコビッチの勝利だったが、この試合はそうではなかったと思う。
 しかしフェデラーは「僕の出来が悪かったとは思わないよ。僕より少し調子のいい相手と当たってしまっただけさ」と語った。完敗のショックはあるだろう。しかし、今のフェデラーには敗戦を受け入れるだけのキャパシティがある。ライバルたちの力を認め、彼らと競い合っていくことが、生涯グランドスラムを達成した今のフェデラーのモチベーションなのだと思う。
「今後については楽観的に見ているよ。体調面も問題ない。ここ数年、2月くらいの時期に体調面で問題が起きていたけれど、今回は無事に過ごせればいいなと思っている。インディアンウェルズからマイアミ、そしてクレーコートシーズンに向けて、体調に問題がないというのはなによりだよ」
 フェデラーは、何ごともなかったように、淡々と語るのだ。

2011年1月22日 (土)

【2011年全豪オープン】錦織圭完敗。課題は堅実さと創造性の折り合いか

 錦織圭の全豪オープンは3回戦敗退で幕を閉じた。第9シードのフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)にストレート負け。記者会見では「結構、力の差を感じたので、ショックは大きい」と語った錦織。昨夜は眠れぬ夜を過ごしたことだろう。
 ベルダスコは強烈なサーブとグラウンドストロークを持ち、攻守に剛柔をうまく使い分けるので、錦織にとってやりやすい相手ではなかったはずだ。特にトップスピンの重いボール、バックハンドの高いところに跳ねてくるボールには苦しんだ。その相手を意識しすぎて、立ち上がり硬くなったことも試合を難しくした。ただ、相手はトップ10選手。今の錦織と力の差はあって当然だ。「体力的にもテニス的にも足りていないと痛感させられた。これ以上に行くには、もっとやらなきゃいけない」と思えたことを収穫とすべきだろう。
 興味深いのは「今のテニスでは通用しないので、攻撃的にもやっていきたいし、変えていきたい」という錦織のコメントだ。今シーズンからブラッド・ギルバートコーチのサポートを受けている錦織は、堅実なテニスを目指している。路線としてはおそらく正しいが、錦織の最大の持ち味である奔放さ、創造性とどう折り合いをつけていくかというのが難しいところだ。
「今までは、打って打って、ミスしたりウイナーだったりというテニスだったので、今は安定したテニスを課題にしている。でも、攻めないと勝てないので、その判断力をつけたい」と会見で語った錦織。単に安全にプレーするのではなく、堅実さという課題をどう突き詰め、どう研ぎ澄ませるのか。錦織なら、解答を見つけ出すことができるはずだ。

2011年1月19日 (水)

【2011年全豪オープン】「数年かけてセカンドキャリアを築きたい」とエナン

 1年前のこのコラムにエナンの練習について書いたのだが、昨日も練習コートに向かう彼女とすれ違った。コーチが先導し、人混みをかき分けながら歩くエナンに小さな女の子が二人、歩み寄ってサインを求めた。彼女は「これから練習だから、ごめんね」とサインを断ったのだが、わざわざ足を止めて子供たちにやさしく語りかける姿が好ましかった。これから練習という集中モードの中で見せた余裕は、昔の彼女にはなかったものではないか。
 この日の2回戦でエナンはバルタチャ(英国)にストレート勝ち。徐々にエンジンがかかってきた様子だ。それでも、彼女が目指すテニスは、もっと高いところにあるようだ。会見ではこんな話をしている。
「(リズムを取り戻すには)まだ試合をこなす必要があるわ。それはオーストラリアンオープンに限ったことではないの。2010年シーズンに限ったことでもない。数年かけて、セカンドキャリアを築いていきたいと思っているのよ。去年は大変な1年だったから、今年は一歩一歩自信をつけていければと思っている。たくさん練習してきたし、今もやっている。できるだけのことはやるつもりよ」
 先入観かもしれないが、以前のエナンには、いつも何かに追われているかのような性急さが感じられた。しかし今のエナンは、ハードワークを重ねながらも、ゆったりとした気分で、やがて訪れる収穫の時を待とうとしているように見える。

2011年1月17日 (月)

【2011年全豪オープン】格好悪く勝った(?)錦織圭

 何年か前のフレンチオープンで、杉山愛に、当時ジュニアでプレーしていた錦織圭の試合を観戦した感想を尋ねると「もう、目がハート!」と、おどけた表情を見せた。彼の好調時のテニスを見れば、だれだって「目がハート」になるだろう。錦織は、見る者をプレーで酔わせるファンタジスタなのだから。
 しかし、ここしばらくは、見ていてスカッとする試合は少なくなるかもしれない。
 今季から錦織はブラッド・ギルバートをコーチに迎えた。選手時代から策士として知られ、アンドレ・アガシやアンディ・ロディックを指導した名コーチだ。契約の関係でこの全豪では直接指導を受けることはないが、その意志はトラベリングコーチを通じて錦織に伝えられている。また、今季の開幕前には錦織がギルバートのもとを訪れ、ミーティングを行っている。
 ギルバートと言えば『ウイニング・アグリー(醜く勝つ』の著者。格好良く勝とうと思うな、格好悪く勝つべきだ、というのが彼の勝負哲学だ。イマジネーション豊かに次々と攻め手を繰り出す錦織とは正反対のキャラクターと言ってもいい。だが、錦織のチームは、彼をトップレベルに引き上げるコーチとしてギルバートに白羽の矢を立てたのだ。
 全豪1回戦、錦織は「安定したプレー」をテーマに戦った。少し地味な、以前のエアKのイメージとはかけ離れたプレーだった。だが、これが錦織の新路線なのだ。錦織も「みんなそうだと思うんですけど、経験を重ねるごとに、安定というか、無理をしないテニスに変わっていっていると思うので、(自分も)変えていかなくてはいけないと思っている」と話している。
 おそらく錦織も今後、ジレンマに苦むことだろう。我々も、以前の彼のイメージを追いかけていると、フラストレーションが溜まるかもしれない。だが、今は我慢だ。脱皮した錦織は、きっと今よりすごいプレーヤーになっている。

秋山英宏
Akiyama Hidehiro

秋山英宏

1961年生まれ。大学卒業後、フリーランスライターとしてスポーツ、レジャー分野を中心に雑誌、新聞で執筆活動を行う。1987年からテニスの取材を開始し、グランドスラムをはじめ、国内外の主要トーナメントを取材。テニス専門誌に多くの観戦レポート、インタビュー記事などを執筆している。日本テニス協会広報委員会委員。